固定残業代(みなし残業代)とは?計算方法や導入する際のポイント、みなし労働時間制との違いもご紹介!

固定残業代(みなし残業代)とは?計算方法や導入する際のポイント、みなし労働時間制との違いもご紹介! 労務

毎月の残業に対する賃金を定額で支払う固定残業代は、事前の人件費把握や余計な時間外労働の抑制に効果があるということで、導入する企業が増えています。

また、同じような制度としてみなし労働時間制というものもありますが、これらの違いについても詳しくは知らないという方も多いのではないでしょうか。

今回は、固定残業代について詳しく解説していきます。

固定残業代の計算方法や導入のポイント、みなし労働時間制との違いについてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

◇記事の内容を動画で解説◇

固定残業代(みなし残業代)とは?

固定残業代とは、みなし残業代とも呼ばれ、深夜残業を含む時間外労働や休日労働といった残業に対して、想定される時間分の残業代を毎月定額で支払うものです。

通常の残業代の場合「時間外労働時間×通常の賃金×1.25倍」という計算方法で残業代を計算します。

しかし、固定残業代の場合は一定の時間外労働を想定して毎月定額で支払う仕組みのため、あらかじめ「20時間分の時間外労働手当」と定められていれば、実際の残業時間が10時間だったとしても20時間分の残業代が支払われます。

このように固定残業代は、実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ想定された時間分の残業代を一律で支給する制度なのです。

固定残業代を導入する目的は?

企業が固定残業代を導入する主な目的は、毎月発生する給与支出を一定にすることで、給与計算を簡略化できることです。

しかし、固定残業代の導入はどちらかというと従業員側に大きなメリットがあります。

固定残業代は残業時間の長さに関わらず一定の残業代を支払うため、従業員としてはなるべく短い時間で業務を終えた方が得をする状態となり、生産性が上がりやすくなります。

また、従来の残業時間に応じて残業代を支払う形だと、仕事ができないために業務時間が長くなっている人の方が給与が高くなるという不公平感がでやすい状態になってしまってい待っていましたが、これも固定残業代の導入によって解消につながります。

こういった目的のために、固定残業代の導入をする企業が増えているのです。

固定残業代(みなし残業代)の計算方法

固定残業代には、「手当型」と「組込型」の2種類の計算方法があります。

どちらも根本的には同じですが、雇用契約書をつくる際の表記や就業規則で残業代に関する規定をつくる際に記述する内容が変わるため、しっかりと確認しておきましょう。

手当型の計算式

手当型の固定残業代は基本給とは別枠として一定額の手当という形で固定残業代を支給する形態のことです。

「基本給27万円+固定残業代3万円」といった記載の仕方をします。

手当型の固定残業代は

「固定残業代=時間単価×固定残業時間×割増率」

という計算式で求めることができます。

仮に1ヵ月(20営業日×8時間)の賃金が270,000円の従業員に20時間の固定残業代を設定する場合は、以下の通りです。

固定残業代=一時間当たりの残業代(270,000円÷160時間×1.25)×20時間=42,188円

つまり、固定残業代を記載する場合は「基本給270,000円+固定残業代42,188円」といった形で表記します。

組込型の計算式

組込型の固定残業代は、基本給の中に固定残業代を含めた形で支給する形態のことです。

具体的には「基本給30万円(20時間分の固定残業代として3万円が含まれます)」というような表記となります。

組込型の固定残業代は先に固定残業代を算出し、基本給から差し引くという計算式になります。

固定残業代=給与総額÷{1ヵ月の所定労働時間+(固定残業時間×1.25)}×固定残業時間×1.25

手当型と同じく、1ヵ月の賃金は賃金が270,000円の従業員に20時間の固定残業代を設定するケースで算出してみました。

固定残業代=270,000円÷{160+(20×1.25)}×20×1.25=36,486円
基本給=270,000円―36,486円=233,514円

つまり固定残業代を記載する場合は「基本給270,000円(20時間分の固定残業代として36,486円が含まれます」といった記載になります。 

固定残業代(みなし残業代)を適切に運用する方法

固定残業代はただ設定すればいいというものではありません。

適切に運用するためには、

・就業規則内で固定残業代について周知すること
・通常の労働時間に対する賃金と固定残業に対する賃金を明確に区別すること
・実際の残業時間が固定残業時間と異なる場合の対応についても明記する

といった対応が必須となります。 

では、それぞれの項目について詳しくみていきましょう。

就業規則内で固定残業代について周知すること

固定残業代を導入する場合、その詳細を就業規則に記載して従業員に周知する必要があります。

個別の労働契約書についても、「時間外労働〇時間分に相当する手当として〇〇,〇〇〇円を支払う」といった形で、時間外労働の時間数およびそれによって発生する残業代の金額を記載する必要があります。

通常の労働時間に対する賃金と固定残業に対する賃金を明確に区別すること

残業代を定額で支払う場合は、通常の賃金と固定残業分の賃金とが明確に区別できる必要があります。

例えば「月給27万円(固定残業代を含む)」という表記では固定残業分の賃金が明確になっていないためNGです。

上記の場合は「月給27万円(20時間分の固定残業代4万円を含む)」といった記載が適切です。

また、給与明細にも「固定残業手当」や「固定時間超過分手当」と記載し、明確にわかるように記載する必要がありますので注意しましょう。

実際の残業時間が固定残業時間と異なる場合の対応についても明記する

固定残業代の円滑な運用のために、固定残業時間よりも実際の労働時間が少ない場合、そして多い場合についてもしっかりと記載しておく必要があります。

原則として、実際の労働時間が定められた固定残業時間よりも少なかったとしても、決められた固定残業代の全額を払う必要があります。

固定残業代とは、あくまで「時間外労働の〇〇時間分に達するまでは固定の金額を支払う」というものだからです。

逆に実際の労働時間が想定していた固定残業時間よりも多い場合は、上回った時間分の割増賃金を別途支払うことになります。

固定残業代(みなし残業代)を導入する際のポイント

さらにトラブルを起こさないために、実際に固定残業代を導入する際のポイントについてもまとめました。

固定残業代を導入する際のポイントとしては、

・固定残業代の詳細を決める
・従業員へ概要を説明し同意を得る
・就業規則等の整備をする
・固定残業代の導入は残業を強制するものではないという認識を持つ

が挙げられます。

それぞれについて詳しくみていきましょう。

固定残業代の詳細を決める

まずは、固定残業代の内容を考える必要があります。

想定する固定残業時間はどのくらいなのか、組込型・手当型のどちらで計算するのかといった基本的な情報をまずは決めていきましょう。

固定残業時間は会社が自由に設定できます。

ただし、20時間でも30時間でも問題はありませんが、雇用契約の内容と各種法律を照らし合わせ、問題の無い範囲で設定しましょう。

ちなみに36協定では原則1ヵ月45時間、1年で360時間が上限(例外もあり)とされています。

※36協定・・「時間外・休日労働に関する協定届」のこと。労働基準法第36条により、会社が残業や休日勤務を労働者に命ずる場合、労働組合と書面による協定を結び労働基準監督署に届け出ることが義務付けられている

年間360時間ということはつまり、月間30時間が上限となりますので、上限時間を超えないように設定しましょう。

また、時給換算した際にその地域の最低賃金を下回らない時間と金額になるよう注意が必要です。

従業員へ概要を説明し同意を得る

詳細が決まったら、従業員への説明を行います。

従業員にしっかりと納得して同意してもらうためには、説明会を開催して理解を深めてもらうことが大切です。

口頭での同意だけではなく、同意書を作成してしっかりと書面に残すようにしましょう。

万が一トラブルに発展してしまった場合でも、書面で残しておくことで客観的な証拠となります。

就業規則等の整備をする

従業員の同意が得られたら、就業規則、雇用契約書にも固定残業代に関する規定を設けましょう。

固定残業時間と金額を明記し、それを超えた残業があった場合は超過分を支払う旨もしっかり記載します。

その他、固定残業代が時間外労働のみに充てられるのか、それとも深夜残業や休日出勤にも充てられるのかも明確に規定しましょう。

固定残業代の導入は残業を強制するものではないという認識を持つ

よくある間違った認識として、固定残業代を出している分は働いてもらうものだと思っているケースがあります。

固定残業代はあくまで、あらかじめこれだけの残業が発生する可能性があるという認識のもと残業代を支払う制度であり、その分の残業時間を強制できるものではありません。

また、固定残業代を導入する目的からいっても、生産性を上げたいと思ってもらったり、残業代による不公平感をなくすというのがあるため、残業を強いてしまっては元も子もありません。

なぜ、固定残業代を導入しているのかという目的を見失わず、残業を強いるようなことがないよう注意してください。

固定残業代(みなし残業代)のデメリット・メリット

次に、固定残業代を導入するデメリットとメリットについて説明します。導入を迷っている方はぜひ参考にしてください。

固定残業代(みなし残業代)3つのデメリット

実際の残業時間が短かかったとしても余分に給与を支払うことになる

固定残業代は実際の労働時間に限らず、一定の金額を支払うことになります。

つまり、実際の労働時間が想定していた固定残業時間より短い場合には、固定残業代を導入していない場合と比較して、多くの給与を支払うことになるのです。

固定残業代の導入によって採用が難しくなる可能性がある

固定残業代はすでに多くの企業で取り入れられており、認知度もそこまで低くはありません。

しかし、すべての人が制度を正しく理解しているわけでもないのです。

中には「固定労働時間分は必ず働かなくてはいけない」「固定残業時間を超えて働いてもそれ以上の残業代がもらえない」といった誤解を持っているケースもあります。

こういった誤解があると、応募を踏みとどまらせてしまったり、内定を出しても辞退されてしまうといったことが起こる可能性もあるので注意が必要です。 

勤務時間が不規則な業種では導入が難しい

固定残業代はあらかじめ残業時間を見込んで設定しますが、基本的に毎月同じ残業時間を見込みます。

つまり、繁忙期などにより時期によって勤務時間にばらつきがある業種の吐合は導入が難しいです。

自社の業種や職種で導入した場合に不都合が発生しないかどうかは事前に検討しましょう。

固定残業代(みなし残業代)4つのメリット

人件費が把握しやすい

固定残業代は通常の残業制度と比べて、毎月従業員に支払う賃金の変動が少ないため、事前に人件費を把握しやすいです。

また、深夜労働が発生する場合も、固定残業代制度を使うことで割増賃金から除外されるため、複雑な計算をする必要がなくなります。

ただし、最低賃金を下回るなど、労働基準法の条件を満たさない場合は違法となってしまう可能性もありますので注意が必要です。

従業員の給与が安定する

固定残業代制度では毎月一定の金額を支払うため、残業代が固定されていない場合よりも従業員の給与は安定しやすいです。

これにより、従業員のモチベーション向上などの効果も期待できます。

過剰な残業の抑制につながる

固定残業代にすると、従業員は残業の有無にかかわらず固定残業代が支払われます。

そのため、従業員からすると「同じ給料であればなるべく短い時間で業務を完了させた方が得だ」という思考になりやすく、結果的に残業時間が少なくなる場合があります。

求人票に掲載する給与額を高くみせられる

求人票には固定残業代を含んだ給与額を掲載します。

もちろんそこに固定残業代が含んでいる旨も記載する必要はありますが、基本給のみよりも高い給与額をみせることができます。

悪用は厳禁ですが、少しでも多くの求職者に求人をみてもらうという意味では効果的でしょう。

固定残業代(みなし残業代)が違法になるケースとは?

固定残業代は正しく運用しなければ違法となることもあります。

以下の場合に違法となる可能性があるので、注意しましょう。

・固定残業代の金額・時間が明確に記載されていない
・超過した分の残業代を支払わない
・ 労働基準法で定められている以上の固定残業時間を設定する
・最低賃金を下回っている
・企業側が固定残業代を周知しなかった

では、それぞれについて詳しく解説していきます。

固定残業代の金額・時間が明確に記載されていない

固定残業代の金額と時間は、就業規則や雇用契約書にしっかりと記載しておく必要があります。

また、給与明細にも通常の勤務時間に対する給与額と固定残業時間に対する給与がわかるように記載されていなければ、違法な運用と判断される場合があるので注意が必要です。 

超過した分の残業代を支払わない

固定残業代はあくまでも想定された残業時間の労働に対する賃金を毎月定額で支払うものです。

想定された残業時間を超過した分の残業代を支払わなくてもいいというものではありません。

なので当然ですが、固定残業時間を超過した分の残業代は支払わないと違法になります。

労働基準法で定められている以上の固定残業時間を設定する

労働基準法では、時間外労働の上限は「月45時間・年360時間」と定められています。

また、原則である月45時間の時間外労働を超えることができるのは「年6ヶ月まで」です。

この上限を超えて固定残業時間を設定するのは違法となります。

ただし、時間外労働の上限時間には例外や特例もあるため、詳しくは労働局などで確認してみてください。

時給換算をした際に最低賃金を下回っている

固定残業代を導入する際に見落としがちなのが、最低賃金を下回ってしまうことです。

最低賃金の計算は、基本給と諸手当(精勤手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当は除く)のみが対象で、固定残業代を除いた状態で計算する必要があります。

固定残業代を含めた金額で賃金を計算し、気付かないうちに最低賃金を割っていたということがあれば、当然、違法となりますので注意しましょう。

企業側が固定残業代を周知しなかった

先述のとおり、固定残業代制度を取り入れる場合は、その制度について労働者に周知する必要があります。

周知をせずに労働者の同意なく給与形態に固定残業代を含むというのは違法行為です。

みなし労働時間制との違い

固定残業代(みなし残業代)と、よく似た人事制度に「みなし労働時間制」があります。

この2つは名称こそ似ていますが、似て非なるものですので注意が必要です。

そもそも、固定残業代(みなし残業代)は「残業時間をあらかじめみなして」一定の残業代を支払うものです。 

対して、みなし労働時間制は残業時間ではなく、「労働時間全体をあらかじめみなして」報酬を決める制度です。

つまり、あらかじめみなす部分が残業時間か労働時間全体かという点になります。

ちなみに、固定残業代(みなし残業代)は様々な分野の職種で導入されていますが、みなし労働時間制はデザイナーやシステムエンジニア、テレビ番組のプロデューサーなど、働く時間が不規則な職種や労働時間と仕事の成果が結び付きづらい職種で導入されることが多いです。

固定残業代(みなし労働残業代)は多くのメリットがある

あらかじめ一定の残業代を想定する固定残業代は、人件費の把握や時間外労働の抑制の効果が見込めます。

また、会社の業績や繁閑などの事情に左右されずに給与額が安定するため、従業員の雇用環境整備にもつながり、定着率アップも期待できます。

ただし、適切に運用しないと違法となるケースもあるため、正しく運用して最大限メリットを獲得しましょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました